この声がきみに届く日‐うさぎ男の奇跡‐
俺の言葉が通じない美代はバカみたいにニンジンを差し出したままニコニコしている。



『人参はいらねぇって言ってるだろ!とにかくさっさと行くぞ!』


俺は美代が手にしている人参を前足で蹴飛ばした。


「ひゃんっ!」


美代の小さな悲鳴と共に人参は芝の上にポソッと落ちた。



「あぁ~もったいない」


『んなことより美代、時間見ろよ!』



俺は美代の腕時計を叩いた。


「えっ!あれ?やば~ッいつの間にかもうこんな時間なのぉ?!」


美代は慌て荷物を担ぐと俺を連れて走り出した。











アパートに着くと案の定、既に引っ越し業者のトラックがついていた。


頭をペコペコ下げる美代。



『ったく…だから俺が早くしろって言ったのに』


俺は呆れながらため息をつく。


そして次々運び込まれるダンボールを避けるようにベランダに出た。


1階のベランダからは先程までいた緑地公園の芝が見えた。




『あ…あいつ!』


芝の上では先程の猫が落ちた人参を食べていた。


『あいつ…猫の癖に生の人参、食うのか…』


よほど腹が減っているのか猫は人参を貪っていた。



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