先見の巫女
四ノ巻

主と従者…過去編



天と地が別つ前…
神世の時代


これは今から
約1000年前の物語…


――――――――
――――――
――――


「青龍の神子様」


年配の神官は庭の桜を見上げる少女に声をかける。


その呼びかけに顔を上げるのは羽優という18の少女。その姿は美しく、見事な栗色の髪と瞳を持っていた。


「どうかしたの?」

「村がまた一つ、妖に滅ぼされたとか…
いつこの青龍殿が襲われるかと思うと……」


まただ…と羽優は苛立ちげに神官を見上げる。


また自分の心配ばかり。
自分の命、安全…


全て自分の身を守りたいが為に力を求める。


「此処は安全でしょう。村の民の心配より、自分の心配をするの?」


羽優の厳しい一言に、神官は黙り込んでしまった。


「私は此処で守られているだけなんて嫌なの。力があるのにどうして自分の足で歩き、自分の手で救おうとしては駄目なの?」


青龍殿に神と人の間に生まれた神子として崇められた。
けれど…


広くて、大きな家。
困らない食、衣服。
ただ与えられた物を持ち、食す…


それは飼われているのと変わらない。


この檻から出ることを許されず、幼い頃からずっと此処で暮らしてきた。





< 165 / 216 >

この作品をシェア

pagetop