一人こっくりさん
第六章 悲劇
 我が家に帰るのにこんなに緊張した事なんてあっただろうか。

 答えは否。
 ある訳がない。

 しかし今は家の前に居るというのに、なかなかドアを開けられずにいた。
 冷や汗が頬を伝う。

「あ〜っ、くそ……」

 家の前で立ち往生して早三分。
 何だか苛ついてきた。
 情けない自分に。

 別に家のドアを開けた途端に“何か”に襲われる、なんてないだろう。

 そうは思っても、やはり……。

 いや! どうせ家には母さんも居るのだから、いつも通りにただいまって言って入れば大丈夫だ!!

 よし、いっせーので! で入ろう。


 ……いっせーので!!


 俺はドアを開けた。


 神経を研ぎ澄ます。
 注意深く玄関の周りを見渡す。

 ……よし、大丈夫だ。
 何もないじゃないか。

 三分間も立ち往生していた自分が急に馬鹿らしくなった。

 はぁ……、無駄に疲れた。

「ただいまー……」

 返事は無い。

 あれ?
 いつもなら『おかえり』って返事が返ってくるのに……。

「出掛けてるのかな」

 と呟いてみたが、母さんの靴はしっかりある。

 あれ――――?

 ……

 ……………!!

 もしかして――


 嫌な予感がする!!!

 俺は階段を駆け上がり、自分の部屋へ向かった……。
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