ショコラ~恋なんてあり得ない~


「あの、……すいません。財布を忘れてしまったみたいで、今度支払いに来るのでもいいですか?」


散々待たせてその一言。
かー、ムカツク!!

怒りって頂点を通り過ぎると逆に冷えてくるらしい。

あたしは、空々しいほどのスマイルを浮かべ、苛立ちのあまり妙に甲高くなった声で応じる。


「何か身分証明書はお持ちですか?」

「え? いや、免許証は財布の中だし……。あ、これが」


男が差し出したのは名刺。

〈個別指導塾エース 講師 松川 宗司〉
とかいてある。

ああ、駅前にある塾だ。
そこの先生なの?
全然見えないなぁ。


「お名前控えさせていただきますね。失礼ですが連絡先書いていただいてもよろしいですか?」

「あ、はい」


男はその名刺の裏に住所と電話番号を書いた。
できがったそれを受け取り、とびきりの笑顔を見せる。
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