黒の歌姫
 ランダーはふと、左手にひろがる白樺の林に目をやった。白と黄緑の木々の隙間から、ちらちらと光る湖が見える。
――あの桜の若木は湖に向かって枝をさしのべながらのびていくのだろうか。
 ランダーの頭をそんな考えがよぎった。
 やがて春が来て、桜は薄桃色の花を満開に咲かせることだろう。花は水面に散っていき、、湖水はまばゆいばかりに輝く――
「どうしたの、ランダー?」
 ソニアが怪訝そうに振りかえった。気づかぬうちに馬を止めていたらしい。
「なんでもない」
 ランダーは、感傷的な考え方をしている自分に苦笑した。
「行こう」


 人間のいなくなった湖畔では、桜の若木が湖にその枝をさしのべるようにして風にゆれていた。
 湖水は穏やかに水をたたえ、日の光を桜の若木へとはねかえしている。
 湖もまた手を差し伸べ、桜の木を抱いているのだ。
 いつまでも。
< 55 / 55 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:6

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

龍とわたしと裏庭で【おまけの圭吾編】

総文字数/33,904

ファンタジー118ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
【短編】圭吾の側から見た 志鶴との日常 一話完結の短編集 (になる予定) 志鶴視点の本編も読んでね ※本編がファンタジーなので本作もファンタジージャンルに入れていますが、恋愛物です
氷狼―コオリオオカミ―を探して

総文字数/56,790

ファンタジー200ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
冬の嵐の夜 あたしは昔話の白魔の行列を見てしまった おかげで妖魔たちに捕まって 『冬を狩る者』チェイサーと氷狼を追うはめに 氷狼を捕まえたら一つだけ願い事がかなう 家に帰るか それとも あたしの願いは…… .。.:*·゜゜·**·゜゜·*:.。. 真々野 仁美さま 素敵なレビューをありがとうございます
海の城 空の扉

総文字数/68,348

ファンタジー159ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
波の荒い海の孤島に古い城があった。 古城に住むラドリーンが、ある日秘密の通路の先で出会ったのは――? 「全てを捨てて、俺と行こう」 オーロラのような髪をした歌人(バード)だった。 2013.3.31 - *:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:゚・:,。*:..。o○☆゚・:,。* 『幻獣のタペストリー』の前日譚ですが、独立した物語となっております。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop