例えば私がアリスなら
とばっちりを食らった杉野先輩は少々縮こまって、数歩後退した。
「あ、なんか、無理そう……?」
「先輩の格好が?」
「月江ぇえ!!お前練習終わったらただじゃおかな」
「近藤が呼んでるんだけど……じゃあまた後でに」
「えっ、え!咲斗先輩が!?きゃーっ」
「……………………。」
月江がこれ以上ないってくらい「うわぁ……」な顔して冷ややかな視線を送ってくるみたいだけど、今の私にはどうでもいいこと!
コロッと機嫌が治った私の様子を伺う杉野先輩に「今すぐ行きます!」なんて、これ以上ないスマイルを飛ばした。
ああどうしよう!
まさか先輩が私に会いに!私に会いに来てくれるなんてえっ!
「ああもう!来るなら先に言っておいてくれればいいのに!
結菜!私どっかおかしくない?」
「…………ぇえっと」
可愛いアリスはこれ以上ないってくらい困った顔をして、私を頭から足先まで何回も見る。
「いや、変でしょ。着ぐるみですもん」
言葉を濁す結菜の横で、月江はきっぱり言った。
そうか!忘れてた!!
どうしようピンク兎の着ぐるみなんかで先輩の前に出るなんて……今すぐ着替えて…………
「まあいつもとそんなに変わりませんって」
変わらず変だと!?元凶のお前が言うな!!
「変わるでしょうがっ!!お前いい加減失礼なこと言」
「真琴いる?」
「あっ……先輩……っ」
ドアからヒョコッと顔を出した人物に、思わずフカフカの手で頬を押さえて俯く。
瞬間、この場の部員の空気が一気に冷めた。
そんなことは一切気にせず、ドスドスとドアに駆け寄る。
なんて走りにくいんだ!こんなんじゃすぐにアリスに追いつかれるよ兎!
「あ、えと、何でここにっ?」
私より高い位置にある目を見上げると、彼、近藤咲斗は優しい眼差しを返してくれた。