例えば私がアリスなら


とばっちりを食らった杉野先輩は少々縮こまって、数歩後退した。


「あ、なんか、無理そう……?」


「先輩の格好が?」


「月江ぇえ!!お前練習終わったらただじゃおかな」



「近藤が呼んでるんだけど……じゃあまた後でに」



「えっ、え!咲斗先輩が!?きゃーっ」




「……………………。」



月江がこれ以上ないってくらい「うわぁ……」な顔して冷ややかな視線を送ってくるみたいだけど、今の私にはどうでもいいこと!


コロッと機嫌が治った私の様子を伺う杉野先輩に「今すぐ行きます!」なんて、これ以上ないスマイルを飛ばした。


ああどうしよう!
まさか先輩が私に会いに!私に会いに来てくれるなんてえっ!


「ああもう!来るなら先に言っておいてくれればいいのに!
結菜!私どっかおかしくない?」


「…………ぇえっと」


可愛いアリスはこれ以上ないってくらい困った顔をして、私を頭から足先まで何回も見る。



「いや、変でしょ。着ぐるみですもん」


言葉を濁す結菜の横で、月江はきっぱり言った。


そうか!忘れてた!!
どうしようピンク兎の着ぐるみなんかで先輩の前に出るなんて……今すぐ着替えて…………



「まあいつもとそんなに変わりませんって」


変わらず変だと!?元凶のお前が言うな!!




「変わるでしょうがっ!!お前いい加減失礼なこと言」



「真琴いる?」



「あっ……先輩……っ」




ドアからヒョコッと顔を出した人物に、思わずフカフカの手で頬を押さえて俯く。

瞬間、この場の部員の空気が一気に冷めた。



そんなことは一切気にせず、ドスドスとドアに駆け寄る。
なんて走りにくいんだ!こんなんじゃすぐにアリスに追いつかれるよ兎!


「あ、えと、何でここにっ?」


私より高い位置にある目を見上げると、彼、近藤咲斗は優しい眼差しを返してくれた。
< 6 / 23 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop