ヴェールを脱ぎ捨てて
「マレーン」私の思考の中に、青年の声が響いてきた。思考の途切れに目の前の現実に気づけば、そこは。「驚いただろう」自然と、私は繋いでいた青年の手をぎゅっと握った。手に力が入った。不安と期待の裏表が私の視界に現実とまざって浮かんでくる。そうして、鏡の青年は私に『現実逃避』を絶対的に否定するように笑いかけた。「マレーンは思っただろう?鏡の世界は反転していると、だから私は反転をしてみせた。私はマレーンの望みを映す。そう言っただろ、だから、それだけさ」私の視界に広がるのは、現実世界と同じ、下町の商店街だった。「ここは確かに鏡の中だ。けれど、鏡は全てを映し出す。全部だ」私は、私が犯した一つの罪からは逃げらない絶望を知る。淡い期待を、一瞬で跳ねとばされたのだ。「でも、マレーンは、それでもいいと言った」青年が私の手を強く握り返してきた。私は頷く。「それでいい」私の呟きに満足したように青年も頷いて、私を迷わずに商店街の中へ導いていく。青年は私の鏡だ。確実に私が今一番必要としているものまで、連れて行ってくれる。
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