ヴェールを脱ぎ捨てて
罪はいつまでも
私は、青年の手をとった。私がもといた世界の反転で。そこは鏡の中。私がいた世界と景色は覗く額縁が違う世界。私はここで、私の鏡に触れた。私は汚い。私は、私とともにいた侍女が、私を逃がしたという事実を置いてきたのだ。問いかけられた侍女はこういうだろう、『鏡の中に入って行ったんです!』。失笑だろう。誰も信じてくれないだろう。私を代替にした本当の姫は、下町で恋した男性のもとへ逃げているはずだ。下町の下郎に恋をした、だからこそ私を代替にしたのだ。姫はいない。代替の私もいない―――そうなれば侍女は―――。冷静になって思考すれば、簡単にわかるはずだった。侍女は国を失くした私の唯一の‥。でも、私はそれでも、そんな私の汚さを見つめてたとえ自分で自分が嫌になったとしても、探したい。私自身を、マレーンを愛してくれる人を。私は望む。私の鏡に幸せを映すことを。だから、私は青年の手をとった。この鏡の中で、私は幸せになるのだ。それこそ、結婚を人生の墓場にしないように。
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