。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。
動き出す運命
名刺!?
◇ 名刺!? ◇
―――
――
叔父貴の会社の前に立って、あたしはごくりと喉を鳴らした。
正面玄関の自動ドアでは、さっきから何人もの営業風のサラリーマンが出たり入ったりしている。
みんなビシッとスーツを着こなして、誰もが時間に追われているようにせかせかしている。
いつになく緊張するのは、これから叔父貴の秘密を探りにいこうとしているからか。
でも……
あたしには戒が居てくれる。
あたしは左手薬指にはまった指輪をぎゅっと握ると、意を決して入り口の自動ドアをくぐった。
受付で名前を名乗ると、すぐに会長室に上がるよう伝えられた。
いつもは怪訝そうに出迎えてくる受付のお姉さんの表情も気にならないぐらい、あたしの体は強張っていた。
最上階まで昇るエレベーターは、高速でおまけに音もほとんどない。
上に昇っているという感覚をしっかりと感じる間もなく、あたしは最上階の廊下に足を下ろした。
なるべく自然な素振りをしながら、会長室に一番近い女子トイレに何気ない仕草で入る。
お手洗いの扉を閉めてあたしは、はぁ~~~っと盛大なため息をついた。
あたし……うまく入れたかな?
何せここの廊下はすぐ上を見上げると監視カメラがぐるぐる回っている。
上質な絨毯が敷き詰められている床にも高度なセンサーがしこまれてるし。
常に廊下の様子が監視され、ちょっとでもおかしな行動を取ることは不可能。
気を取り直して、あたしはバッグからさっき買ったばかりのハンドタオルを取り出した。
なるべくシンプルでいかにもあたしが好まなさそうな色とデザイン。
一つの洗面台の流しの排水溝に、タオルを突っ込むと、蛇口を勢いよく捻った。
ケータイのデジタル時計で時間を確認すると、時間は
16:23を指し示していた。
個室の奥にある清掃道具入れから“掃除中”のプレートを取り出し、
お手洗いから出るときに、さりげなく後ろ手でそのプレートを貼った。
そしてあとは何気ない素振りで会長室に向かう。