。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。
「ただいま戻りました」
帰ってきたらあれこれ言おうかと思ってたけど、いざ本人を目の前にすると言葉がつっかえた。
「お、おうっ!遅かったな!!って、お前びしょぬれじゃねぇか!」
あたしはまるで全身水をぶっかけられたようにびしょぬれになっているキョウスケを見て慌てた。
当の本人は「ああ……」と言っただけでそれほど気にしていない様子。
「風邪ひくぜ。そだ、タオル…タオル!」慌てて風呂場に駆けつけようとした手を、キョウスケにやんわりと引かれた。
「え………?」
キョウスケは濡れた髪をちょっと掻きあげると、
「俺を待っててくれたんでしょう?話があるって顔してる」
と相変わらず温度の感じられない声で聞いてきた。
「……う、うん」
あたしは何とか答えて、それでも妙なとこで鋭いこいつの勘にびっくりしながら、おずおずとキョウスケを見上げた。
「それより先に風呂入ってきた方がいいんじゃねぇか?風邪ひいちまう」
「いえ。大丈夫です。ちょっとなら……」そう言ってキョウスケはあたしの手を握ったまま、すでに紐を解いていたブーツを脱いだ。
そして無言であたしを引っ張っていく。力強いのに、強引には思えなかった。
「俺の部屋……は、まずいか。居間で、どうですか?」そう聞かれて、あたしは曖昧に頷いた。
キョウスケの……こうゆう何気なく気を遣ってくれるところ、ホント好きだよ。
あたしが若い男と…しかもあたしに気がある男と二人きりになるの、本当はまだちょっと怖いことを何気なく気付いている。
あたしはキョウスケに自分の過去を話したことがない。だけど一緒に生活する上で距離を保っていたことに―――気付いただろう。
あたしはキョウスケに手を引かれて、居間まできた。
真夜中だから当然誰も居ない。灯りも消してあって真っ暗だ。
キョウスケは壁のスイッチで明かりを入れると、あたしを出入り口に近い場所に座らせた。
それがキョウスケの計らいであり、気遣いでもあることに気付いた。