。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。


俺はこいつが泣いたのを滅多に見たことがない。


それもその数少ない涙が、寿司に入っていた激辛いわさびに当たったとか、そうゆう外的な要因だった。


何かの感情で―――涙を流しているのは………


はじめてだ。


昔から知ってるし、こいつのことならなんでも分かる。大抵考えてることは分かるし、何をしたら怒るのか、喜ぶのかも知っている。


だけど俺は響輔の感情を―――読み取れなかった。


びっくりして唇を結んでいると、響輔はうっすらと目を開け、


「体のあちこちが痛い」と小さく呻いた。


「響ちゃん……」


風邪をひいているからなかな?急に小さくなったように思えた響輔を俺は抱き寄せた。


すると響輔は俺の腕の中で小さく身悶えて、俺を押し戻すと、


「何や」


とドスを含ませた低い声で俺を睨んできた。


びっくりして慌てて響輔を離し、顔を覗き込むと、


その顔に涙の痕跡は―――見られなかった。


え……?今、泣いてなかったっけ…?


「俺、一応病人なんですよ。変な嫌がらせしんといてください」


「え…?いや、嫌がらせやなくて…」


「気色悪いわ」と呆れたように言って響輔は再び目を閉じた。


見間違い―――……?


何だか拍子抜けして、俺は力なく前を向いた。







< 400 / 592 >

この作品をシェア

pagetop