。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。
俺はこいつが泣いたのを滅多に見たことがない。
それもその数少ない涙が、寿司に入っていた激辛いわさびに当たったとか、そうゆう外的な要因だった。
何かの感情で―――涙を流しているのは………
はじめてだ。
昔から知ってるし、こいつのことならなんでも分かる。大抵考えてることは分かるし、何をしたら怒るのか、喜ぶのかも知っている。
だけど俺は響輔の感情を―――読み取れなかった。
びっくりして唇を結んでいると、響輔はうっすらと目を開け、
「体のあちこちが痛い」と小さく呻いた。
「響ちゃん……」
風邪をひいているからなかな?急に小さくなったように思えた響輔を俺は抱き寄せた。
すると響輔は俺の腕の中で小さく身悶えて、俺を押し戻すと、
「何や」
とドスを含ませた低い声で俺を睨んできた。
びっくりして慌てて響輔を離し、顔を覗き込むと、
その顔に涙の痕跡は―――見られなかった。
え……?今、泣いてなかったっけ…?
「俺、一応病人なんですよ。変な嫌がらせしんといてください」
「え…?いや、嫌がらせやなくて…」
「気色悪いわ」と呆れたように言って響輔は再び目を閉じた。
見間違い―――……?
何だか拍子抜けして、俺は力なく前を向いた。