。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。
響輔はふっと小さく笑みを漏らすと、
「誰が泣くか」と憎らしげに一言呟いた。そして、
「……やっぱり聞いていはったんですね」
とかすれた声を出し、ゆっくりと俺の方に顔を向けてきた。
「―――やっぱお前は気付いてたんか。朔羅は気付いてなかったみたいやけど」
おかげでこっちは一睡もしていない。
響輔が負った傷と―――そしてあの優しい朔羅が負った傷を―――考えると、眠ることなんて到底無理だった。
観念したように俺が答えると、響輔は自嘲じみた笑みを漏らした。
「何年幼馴染やってる思ってはるんですか。気配じゃなくて、戒さんの考えてることぐらい分かりますよ」
「何年かって?17年と10ヶ月だな」
俺が真面目に答えると、響輔は声にならない苦笑をもらした。
「俺たち昔っから仲良かったですよね。習い事も一緒やったし、おやつも半分こやった。戒さんの好きな生クリームは俺の分もあげた。
だからお嬢を譲ってくださいよ」
「それはいやや。それだけはできへん」
いくら響輔でも―――俺は朔羅のことだけは一歩も譲れない。あいつを誰にも渡さない。
俺だけのものだ。
「……冗談や」響輔はため息交じりに言って、顔を戻した。
「冗談か?本気だっただろ」そう言って目を開けると、響輔の頬に一筋の涙が光るのを見てしまった。
つー…っときれいに伝い落ちる涙の線を見て、俺は息を飲んだ。
響輔―――……