。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。


響輔はふっと小さく笑みを漏らすと、


「誰が泣くか」と憎らしげに一言呟いた。そして、


「……やっぱり聞いていはったんですね」


とかすれた声を出し、ゆっくりと俺の方に顔を向けてきた。


「―――やっぱお前は気付いてたんか。朔羅は気付いてなかったみたいやけど」


おかげでこっちは一睡もしていない。


響輔が負った傷と―――そしてあの優しい朔羅が負った傷を―――考えると、眠ることなんて到底無理だった。


観念したように俺が答えると、響輔は自嘲じみた笑みを漏らした。


「何年幼馴染やってる思ってはるんですか。気配じゃなくて、戒さんの考えてることぐらい分かりますよ」


「何年かって?17年と10ヶ月だな」


俺が真面目に答えると、響輔は声にならない苦笑をもらした。


「俺たち昔っから仲良かったですよね。習い事も一緒やったし、おやつも半分こやった。戒さんの好きな生クリームは俺の分もあげた。


だからお嬢を譲ってくださいよ」


「それはいやや。それだけはできへん」


いくら響輔でも―――俺は朔羅のことだけは一歩も譲れない。あいつを誰にも渡さない。


俺だけのものだ。


「……冗談や」響輔はため息交じりに言って、顔を戻した。


「冗談か?本気だっただろ」そう言って目を開けると、響輔の頬に一筋の涙が光るのを見てしまった。



つー…っときれいに伝い落ちる涙の線を見て、俺は息を飲んだ。



響輔―――……











< 399 / 592 >

この作品をシェア

pagetop