。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。
俺のマンションに着くまでイチは逃げ出そうとはせず大人しくしていた。
ふてくされたように顔をプイと背けてはいたが。
俺はマンションの部屋の前に鴇田組の舎弟を二人立たせて、見張りに付けさせた。
俺が目を離した隙にイチが逃げないように。
舎弟たちを見てイチは大きく舌打ちをし、諦めたように部屋に入る。
少しの間はブツブツ文句を垂れていたが、リビングのソファにどっかりと腰を降ろすと、急に興味が出たのか辺りをキョロキョロ。
「へぇ、綺麗にしてるんだね。さっすが几帳面」
「まあな。退屈するだろうが、自業自得だ。変な気を起こすなよ?」
言い置いて、俺はスーツの上着を乱暴にソファの背に放り投げた。
「シャワー浴びてくる。お前は適当にしてろ」
ネクタイを緩めると、イチが立ち上がった。
俺の前に立つと、ネクタイの結び目にそっと手をやる。
「ここをこうしたら…」と言って、イチはネクタイを締め上げる仕草をした。
「そしたら、首を絞められてあんたは死ぬ?」
上目遣いで聞かれて、俺は無表情にイチを見下ろした。
「そう簡単に行くかな?俺の得意技は絞殺だ。お前が俺の首を絞めるより、お前の首を絞める」
「あら残念。じゃ、これは?」
カチャッ…
小さな音がして俺の腹にワイシャツを通しても分かるひやりとした…それでいて覚えのある感触が伝わってきた。
「俺のハジキだ…いつの間に…」確か、上着に入れておいた筈……
「手癖が悪くてごめんなさい?」
イチは悪戯っぽく笑い、引き金に指を掛ける。