。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。
百合香に目を付けたのだって、最初から彼女が好きだったわけではない。
ただ、美しく聡明な女であったことは確かだ。
気品があり、頭も良くはつらつとしていた。
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何年も前―――それも百合香がまだ健在で、俺たちが恋に堕ちる前―――お嬢が産まれる前のことを思い出す。
夏だと言うのに百合香は濃い藍色の和服を着て、庭に咲いた百合の花を挟みで切っていた。
俺は縁側に胡坐をかき、その様子をぼんやりと眺めていた。
この頃の俺は、成人を迎えた百合香、そしてまだ小学生だった会長と、幼稚園児だった雪斗さんの話し相手になるよう、この頃まだ健在だった俺の親父に言われていた。
話し相手―――なんて体のいい口実だ。俺が変な真似をしないか、親父は俺を龍崎家に閉じ込めて組員に監視させていたに違いない。
俺は―――会長…琢磨さんが産まれたときから、彼には頭が上がらない。
あの人を裏切るようなことは絶対にしない。その事実があったから、親父はある意味親父にとって一番安全な場所に俺を送ったわけだ。
このとき琢磨さんは部屋で一人宿題をやり、雪斗さんもお昼寝の時間だった。
手持ち無沙汰な俺は何となく、百合香を眺めていた。
「あなたも大変ね。琢磨と雪斗の世話どころか、私の面倒も見なければならないもの」
百合香が後ろを向いたまま俺にそっと問いかける。
正直、驚いた。
俺はこの頃、百合香とは二人きりで会話をしたことがなかったから。この頃の彼女は俺を見ると、あからさまに視線を逸らし、廊下ですれ違っても避けるように逃げていく。
嫌われている―――と言う自覚はあった。
原因は分かっている。
俺が―――俺自身のやりどころのない怒りを……復讐を―――百合香を利用して果たそうとしていたから。