軽業師は新撰組隊士!


永倉は楓の胸ぐらを掴んでいる原田の手を再びどけようとしながら、


「し、柴ちゃん、左乃は今苛立ってるだけだから、その、気にしないで!」


と、言ったが
原田は叫ぶ。


「その苛立ってる原因は嬢ちゃ……コイツだろ!」

「左乃!」


―――分からない。
――――全部、分かんない。

楓はまわらない頭でそれだけを考える。


(“嬢ちゃん”って、言わなかったのは……信頼してないから、ですか?)


ただ、悲しかった。
無性に泣きたくなった。


でも
急に胸ぐらを捕まれていた感覚がなくなって、壁にもたれかかったとき


「―――おい原田。なにしてんだ。」


視界に、大きな背中が広がった。


黒く長い髪と、
後ろ姿だけで分かるその威圧感は


「土方さん……どうして。」


いつも、自分を助けてくれた人だった。



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