微動
「どうでしたか?北村香奈子は先生に何と言っていましたか」

まだ守秘義務がないので、あるがままを話した。

「そうですか。やっぱり本人の犯行だと言うんですか」

「私の許へ依頼が来れば、正規の弁護活動が出来るんですがね。今のままでは傍観しているしかありません」

あくまでも弁護士としての意見を述べた。

「かつて愛した女性を見捨てるんですか?」

志田は刑事らしくないことを言った。

「今の私にはどうすることもできない」

語気を強めて言った。

「あなたでなければ救えないんです。その答えは動けば分かります」

志田も負けじと応戦した。

結局、香奈子からの依頼は来なかった。

殺人などの場合、起訴される前に弁護人を選任することができる。

しかし、彼女は裁判所から推薦される弁護士を選任した。

彼女の事件は殺人のみ。

死体遺棄や、死体損壊などでの再逮捕はない。

残り17日間で、彼女の犯行を否定する証拠がなければ、彼女は起訴される。

起訴されて裁判になれば、犯行を認めているため、有罪は間違ない。

弁護士として、冤罪を見過ごすことはできない。

いや、かつての恋人への信頼か。

志田の言葉が突き刺さる。

正規の弁護活動が出来ないなかで、彼女を救えるだろうか。

「俺しかいないのか…」

何かが俺を突き動かした。

翌日から全ての仕事をペンディングし、香奈子の事件を調べた。

先ずは犯行現場である、坂本佑輔のアパートへ行ったが、中に入ることは出来ない。

隣人や大家を訪ねたが、気になる情報は拾えない。

出入りしていたのは、香奈子と男友達ばかりで、香奈子以外の女性は影もなかった。

三角関係のもつれではなさそうだ。

次に、坂本の職場に行った。

被害者の坂本は、バーテンダーをしていた。

店での評判も良かった。

彼を目当てに足を運ぶ、女性客もいたらしいが、店の客に手を出すような男ではなかった。

被害者に恨みを持つ者はいないのか。

志田が見つけた物は何なのか?

解決の糸口が見つからないまま、時間が過ぎていった。

残り10日間。

志田に面会を求めた。
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