夜光虫
「浩介の友達のやっているお店のバーテンさんだって」
階段を降りながら、楽しそうに話す美尋。
「浩介より年上って話だけど、美優には丁度いいでしょう?」
何が丁度いいのか解らないが、美優は返事の替わりに溜め息をついた。
「溜め息をつかない! 笑顔笑顔」
じろりと睨まれて、美優は引きつった笑顔を返す。
「それでよし! とにかく美優。何も身構えることないのよ。美優がいいなって思ったって向こうが嫌って言うかもしれないし、向こうがいいって思っても、美優が嫌なら無理強いするもんでもないんだから」
「なら・・・・・・」
「まずは会ってから決めて」
会うのは強制らしい。
途中教室に寄って鞄を取ると、校門の近くで待っていた浩介と合流する。
「あ。お疲れさん。元気だったか、美優」
ニコニコと頭を撫でてくる浩介を見上げ、美優はまた溜め息をついた。
この際だから、さっさと会ってさっさと断ってしまえばいい。
それから家に帰ろう、そう思っていた美優だが、
「ごめんな。なんか今日約束していたはずなのに、なかなか連絡つかなくて」
イキナリそんな事を言われて、美優は内心拍手をした。
「じゃ、今日は・・・・・・」
「というわけで、現地集合になったから。海に行こう」
「・・・・・・・・・」
現地集合とは?
疑問を表情に浮かべて美尋を振り返る。
「17の夏は今しかない! 花火よ花火!」
またもやぐいぐい引っ張られるまま、近くに止めていた浩介の車に乗り込んだ。
微かなカーコロンの匂い。
それに顔を顰めると、浩介がバックミラーの中から苦笑する。
「相変わらず苦手か?」
普段から鼻が利く方ではないが、嫌いな匂いには敏感な美優。
「これでも窓全開で走ってきたんだけどな。まぁ、長いこと使ってるから」
「ココナツよりもいいよね」
美尋があっさりと言って助手席のドアを閉めた。
美尋は気になるほどでも無いようで、そのままシートベルトを着けるとニッコリ美優を振り返る。
「窓開けなよ」
言われるままにオープンのボタンを押した。