青い春と風の中で
「先生、おはよう」


背後から低く通った声が聞こえて、葵は思わず胸がキュン…となった。――何故なら。

「は、春……ゴホン。――じゃなくて、笹川君おはよう」


振り向くと春の表情はいつになく、険しく見えたが、葵は原因が全く分からずにいた。


「ど、どうしたの?」


「先生、前よりモテモテだよな…」


ボソッ…と、他の人には聞こえないような小声で呟いて頬を膨らませている。


「――あら、ヤキモチかしら」


「べっ…別に、ヤキモチなんか焼いてねぇよ!」

そう答える春の顔は真っ赤に染まっていた。


「ふふ、可愛らしいわね」


「ふ…ふん。」


「――――あ、春。いたいたー!捜したんだぜぇ〜。ちょっと学祭のことでよ……。――あ、先生おはよう!今日も可愛いね♪」


春に話しかけているのは、石橋優希(イシバシ、ユウキ)

――噂によると学校内で2番目に人気の男の子らしいが、少々プレイボーイでナルシスト。可愛い女の子や女性を見ると、すぐに口説く変な癖の持ち主で、何故だか石橋が言うと全く嫌みに聞こえない。


「ふふ、ありがとう。石橋君」


隣に居る春の視線が痛いほど突き刺さる、きっと睨んでるに違いない。


「なぁーに、怒ってんだよ。」

「別に、怒ってねぇし」


石橋が話しかけると春は、ぶっきらぼうに答えている。――明らかに怒っているではないか。


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