AKIRA


 まったく、啓介の頭の中は何が入ってんだ? いつも常夏のハワイみたいに溶けてんのか?

「俺は、お前の事はなんとも思っ……」

「大丈夫だよ、俺のファンの子には、もう言ってあるもん」

「は? 何をだ?」

「だから、俺はアキが好きだから邪魔しないでねって」

「はぁ?!」

 そう言われて、ちらりとフェンスの向こうを見やる。言われてみれば、陽たちにはブーイングぶっこいてたのに、啓介ファンの子はぐっと我慢してる風に見える。

「てめぇ」

「もし」

「は?」

「もしも、アキを傷つける事があったら、俺、何するかわかんないよ? って言ってあるから大丈夫」

 そう言って啓介は、満面の笑顔でVサインなんかしてくる。

 やっぱ、頭おかしいんじゃね?

 でも、そんな啓介が、ふいに真剣な眼差しに変わる。

「だから、俺のもんになれよ、アキ」

「ば、ばばば、ばっかじゃねぇの?!!」

 叫びざま、俺は啓介の肩を放して、後退りしてしまった。そのまま、縺れる足を引っ提げて、ベンチに戻った訳なんだが……。

「で、服部君、なんて?」

 京子がすかさず聞いてきやがる。

 い、い、いい、言えるかっての!

「いや、その……なんだ。俺にタオル持って来いって、はは」

 そう言ってから、しまった、と思った。

「俺?」

 平塚先輩が突っ込んできた。

 やばい、マジで焦る……。

「あ『俺の』タオルを持ってこい、でしょ?」

 そう言って京子がフォローしてくれた。

「あ、そうそう、それ、まったく自分でやってほしいでございます、ですわ、よね」

 うわ、慌ててると更に女言葉って難しい……でも、助かった……って別に俺はみんなに言葉使いを隠してる訳じゃなくてだな……ああ、誰に言い訳してんだ、俺。

 でも、今、俺が気ぃ抜いて、言葉を許してもらったら、もう直せない気がするんだよな。

 そしたら、アイツの前で、女じゃいられなくなるかもしれない。

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