AKIRA

陽side




~ もやもや:陽side ~





「十五分休憩」

 寺倉先輩が、そう言って、何も言わずにコートに広がる球を拾い始める。

 休憩と言われたが、先輩が拾っている以上、誰もがその後に続く。相変わらず、久石はすぐにベンチに向かい、グイッとマネージャーに差し出されたお茶を飲んでいた。

 どうにもならん先輩だな……そう思いながら球を拾い終わり、ベンチに向かおうとした時だ。

 目の前に、新しくマネージャーになった女二人が、タオル片手にもじもじとしている。一人は寺倉先輩を見つめ、もう一人が……俺?

 あ、名前、なんだっけ……覚えてねぇや。

 まぁ、マネージャーなんだし、断る理由もなく、俺はその目の前のタオルに手を差し伸べようとした。

「ありが……うっ!」

 突然、横から俺の顔にタオルが当たる。しかも、頼んでもいないのに拭きにかかった。

「ちょ、やめ……」

 俺は慌ててそのタオルを取り上げた。

「木下?!」

「なによ、そんなに驚かなくてもいいじゃない」

 なんでこいつ、ここにいんだよ。そう思い女子コートを見る。

 ああ、あっちも休憩か……じゃねぇよ。

「つか、てめぇはあっちのコートに行ってろよ」

「なんで? いいじゃない、はい、お茶」

 そう言って俺にお茶を差し出す。

「お前、マネージャーでもなんでもないだろ」

「だから気にしないで、女子も休憩中だから」

 そう言う意味じゃねぇっつうの。いくら休憩中でも、マネージャーでもない女に世話させる訳にいかねぇだろ。

「ちょっと! あんた陽君の彼女でもないでしょ?! 離れなさいよ!」

「そうよ! 女子はあっちへ行きなさい!」

「マネージャーでもないくせに!」



 フェンスの向こうのお姉さま方が叫んでいる。



 ああ、うるさい。

< 122 / 172 >

この作品をシェア

pagetop