Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
「真白? 真白?」
もう、答える気力が無かった。
答えない私に、先輩は頭を撫でたり、背中を擦ったりしていた。
されればされるほど、苦しさが込み上げてくる。
もしかしたら……触られたかもしれない。
そう思ったら、先輩から離れたくなった。
この状況が苦しくて、苦しくて――。
先輩に、なんて言っていいかわからなくなった。
*****
抱きしめようとしたら、真白は震え始めた。
まるで、初めてオレが素を見せた時に似ていた。
俯いて顔は見えないが、小さく、泣いているような声が聞こえてくる。
「これは――お前なのか?」
何度目かの問いかけで、ようやく、真白は頷いて反応を示してくれた。
「なら、痕はまだあるってことか」
「っ!?…………ぁ、あう」
その言葉に、真白は自分自身を抱きしめ始めた。
触れようとすれば逃げ、体の震えも増しているように見えた。
真白との間を開け、大丈夫だと何度も言う。そうしていると、徐々に目を合わせてくれる回数が増えた。
声をかけ続ければ、ゆっくりだが、話をしてくれるようになった。
真白自身に撮られた記憶は無く、状況から考えて、倒れた時にされたというのが確実だろう。
となれば――首の痕もその時。
「首のやつも、その時だろうな」
「た、ぶん……帰って、鏡、見たら。たくさん、あっ、て。――――いや、だっ」
「っ!? バカッ、んなことするな!」
「こんなっ、の……汚い!」
「だからって、んなふうにしたら血が出るだろうが!」
真白は首元をかきむしり、嫌悪感を露にした。じわりと血が滲み出し、かきむしった部分が線となり現れはじめた。
「消したいの! こんなのっ、消したい!!」
「オレが消してやる! だからやめろ!!」
「いっ!?」
両腕を抑え、真白を押し倒した。
それでも真白は顔を横に向け、オレを見ようとはしてくれない。
「落ち着け! ちゃんと、オレが消してやるから」
「っ…………どう、やって」
「上塗りするんだよ」
その言葉に、ようやく真白はオレを見た。
「オレが全部、痕をつけてやる。だからひっかくな。――せっかく綺麗な肌してんのに」
「……きれい、なんかじゃ」
「充分綺麗なんだよ。――お前は、汚くない」
「っ!……ぅう」
「泣くなって。――痛かったか?」
手を離せば、真白は首を振りながら涙を拭った。
不謹慎だってわかってるが、この姿、めちゃくちゃ可愛く思えるんだよなぁ。
潤んだ目に、寝巻き。
しかもここは真白の部屋で、今はベッドの上。
理性がぶっ飛ぶ要素は満載。なんとか保ってくれと、オレは自分自身に言い聞かせた。
「あ、あのうっ」
「? どうした」
「今、から……するん、ですよね?」
「――そうだな。後からがいいか?」
「い、いえ。……消したい、ので」
おそるおそる、ボタンに手をかる。上から二つまで外すと、真白は目を閉じた。
「おっ……お願い、します」
見るからに体を固くし、緊張しているのがわかる。
そう言われると、最後までやるみたいに聞こえるじゃねぇーか。
「そんな怖がるな。上塗り以上はしねぇーから。ま、ちょっとした悪戯はするがな」
思わず目を開け、胸元を隠す真白に、オレは笑みを見せた。
「警戒すんなって。消したくないのか?」
「消したい、ですけど……」
「オレが信用できないか?」
「…………」
「おい、そこで黙るなよ」
「し、信用はしてます! でも……悪戯するのは、確かですから」
「なら、上塗り以外はしねぇーから安心しろ」
「…………はい」
胸元から両手を離し、腹のあたりに置く。
そっと服を引き、鎖骨の部分を見た。
……こんなはっきりと。
両方の鎖骨にそい、赤い痕が幾つもある。
これを他のやつがやったかと思うと……イライラする。