Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
『――珍しくしつこいねぇ~』
不機嫌満点の声。口調はいつもどおりだが、あかるさまに電話を切れと言うオーラが感じられる。
「そろそろ帰って来い。さすがに門限ヤバいぞ」
つーか、ちゃんと理性保ってんのか?
帰り際の言動からすると、キスぐらいしてるんじゃあ。
『心配しなくても帰るって』
「……本当だろうなぁ」
『大丈夫だって。〝キスしか〟してないから』
ったく……言わなくていい情報を。
とにかく早く帰れとだけ言い、オレは電話を切った。
藤原とは兄妹同然に育ったから、そーいう話をされると複雑だ。
相手が隼人だからいいが、あまりそういうことは聞きたくない。
――携帯が鳴る。見ると、それは真白からだった。
『今……大丈夫ですか?』
声がいつもよりとろんとしてる。どうやら起きたばかりらしい。こーいう声を聞くと、無性に抱き付きたくなる。
『あ、あのう……』
「どうした?」
『朝……来て、くれますか?』
「当たり前だ。来るなって言っても行くぞ?」
『さすがにそれは』
徐々に明るくなる声。また自分を傷付けたりしないかと心配したが、これで少しは安心できる。
「朝も帰りも行く。つーか、まだ熱があるのに無理して行こうとか思うなよ? なんならもう一日休んでろ」
『そうすると思います。まだ、体が重いですから』
「電話、辛くないのか?」
『ちょっとだけ。でも……声が、聞きたかったので』
来てほしいって言ったり、声が聞きたいとか。これが普段の時でも言ってくれりゃあなおうれしいんだがな。
◇◆◇◆◇
目を覚ますと、隣には大きなクッションが。顔をうずめると、ちょっとだけ先輩の匂いがした。
寝てしまったから、ちょっとしか先輩と過ごしていない気になって……なんだか淋しい。
ふと、机にある携帯を見た。手に取って見れば、見慣れない宛先からのメールが。でも、メールの内容を見るのはさすがに怖くて、宛先だけを見た。
「本当……どこからきてるんだろう」
最初は先輩のファンかと思ったけど、どこかの掲示板にさらせば、不特定多数の人が面白がって送る、ってことも考えられる。そうなれば、こんなことをするのは一人でもできるわけで――和泉さんが、絡んでるんじゃないかって。
そう思ったら、思わず先輩に電話をかけていた。
『――どうした?』
声が聞こえた途端、泣きそうな気持ちになった。
怖いせいか、早く先輩に会いたくて。自分でも驚くほど、甘えてしまっていた。
今ほど、早く明日になればって思ったことはない。
朝も帰りも来てくれるみたいだけど、会えるまで、なんだか長く感じちゃうなぁ……。
『電話辛くないのか?』
「ちょっとだけ。でも……声が、聞きたかったので」
熱がまだあるおかげか、いつもより素直になれた。
「先輩は、もう本当に大丈夫なんですか?」
『あぁ。オレはもう平気だ。真白は自分のことだけ考えろ』
「わかりました。えっと……それじゃあ、そろそろ切りますね」
『わかった。何かあれば、すぐに知らせろよ? 出来る限り返すから』
「ありがとうございます。それじゃあ、おやすみなさい」
『あぁ。おやすみ、真白』
電話を切ると、私はベッドに横たわった。
ちょっとでも話せたのがうれしくて、自分でもわかるほどニヤついていた。それに先輩は……あんな状況だったのに、それ以上を求めてこなかった。
首についたあとを上塗りすると言った時、結構我慢してくれたんじゃないかなって。
「先輩となら……いつかは」
キスより先のことも、いつか出来るんじゃないかって、そんなことを考えていた。
すると、段々まぶたが重くなってくるのがわかった。
今日はもう、このまま寝ちゃおう。そうすればすぐに朝になって――先輩に会えるから。
――――――――――…
――――――…
―――…
ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ―――…
目覚ましの音が聞こえる。ゆっくり起き上がり止めれば、時刻は五時三十分。
熱を測ってみれば36℃8。ちょっと高いけど、昨日よりは調子がいい。これぐらいなら、学校に行っても平気かな。
私はゆっくりと準備を始めた。朝ご飯は、食べやすいお粥でいいや。着替えも終え、あとは食べるだけとなった時――タイミングよく、呼び鈴が鳴った。
時間を見ればもう六時で、先輩が来てしまったんだと思った私は、急いでドアを開けた。
「お、お待たせしましたっ」
「そんな急ぐことねぇーのに。――もう飯は食ったのか?」
部屋に入るなり、先輩はそんなことを言った。