Love Box:)
(…井上、さん)
だからせめて、名前を呼ぶ。
精一杯に名前を呼ぶ。
息をするのが苦しくて、苦しくて、呼吸がこんなに大変なことだとは思ってもみなかった。
そのまま彼を想い続けていたらまた酸素を吸うのを忘れて、不思議とそのまま息をしないでもいいや、と感じた。
(…このまま、壊れてしまえばいい)
――ダン、ダンダン、ダン!
「ちょっと、なんですかあなた…!」
ダンダンダン、ダン!
(………………エ、)
――ガチャリ、
『っ、香、帰ろ…』
否応なしに勢いよく引かれた腕に驚いたまま、されるがままに気付いたら立ち上がりタクシーを降りる。
『…香、香、行かない、で』
ギュ、と。抱き締められていた。
嘘…嘘…ウソ、じゃない。現実だ。
この温もりも、香りも、逞しい腕の中も―――井上先輩、だ。
(…ふ、な、んで。なん…、で、)
温かくて、温かくて。
力強くて心地よくて。
同じ成分の筈のソレは、さっきまでとはまるで違う場所から溢れ出したかのように温かく、穏やかに頬を伝った。
「…っ、ゥ、井上、さん」
駄目、なのに。泣いたら井上さんの服を汚してしまう。
みちるを想うこの人に、また期待、なんかしたらだめだ。
(…で、も、)
『井上さん…っ、』
「ごめん、香。隠し、てた」
『ま、待って…』
震える両手で彼の胸を押し返して、バックから慌ててお札をとりだすと、運転手さんに渡した。
おじさんは口端に笑みを添えて、静かに閑静な街並みに消えた。
『…香、ずっと好きだった』
おとぎ話やドラマのような、有り得ないこの展開に、私の脳は未だ疑うことをやめない。
頬を、抓る。涙がでる。
瞬きをして彼が消えやしないかと確かめる。涙がでる。
『―――っ、現、実…?』
涙が、でた。