イマージョン
義則は人が良いのかもしれない。自分が付き合っていた眞奈を、眞奈を好きになった優介に紹介したのだから。
私は思う。性格が義則で顔は目鼻立ちがハッキリしていて背の高い優介が自分の彼氏だったらと。

でも眞奈に嫉妬心は無い。眞奈は可愛いし、優介君、お似合いだから。そして風船化け物なんて相手にされないだろう。

だから私には、義則クラスの男が似合うのだ。

でも義則は性格が良くても、嫌いな所のが多い。私は人の良い義則を利用しているだけなのだ。

義則と喧嘩した時、私は、もう帰ると言って山の上に有る義則の家を飛び出し、坂道を怒りながら下って行った。暫くするどバタバタバタバタバタと、物凄い音が聞こえて来た。振り返ると案の定、義則だった。気持ちが悪かった。走り方が気持ち悪い。ナヨナヨしていた。だらしないスエット姿で余計気持ちが悪かった。
「美夢が居なくなるなら俺死ぬから」
女々しい事を言う奴だと思った。
手を引かれ、元来た坂道を無言で登る。
義則の家を通り過ぎて、何をし出かすかと思えば、義則は道路の歩道に立ち、車来ないかなぁ…とボソっと、でも私に聞こえる様に言っていた。
あぁ、死ぬ気なのか。トマトになるのを見せ付けたいのか。迷惑極まりない。死ぬなら1人で死んでくれよ。
黙って様子を見ていると、何台か車が通る度1、2歩踏み出すが、飛び込もうとしない。
「もっとスピード有る車来ないのかよ」
言い訳をしていた。

死にたければ、さっきの坂道を下った所に国道が有るでしょう。あなた良く知っているでしょう。其処なら一瞬でトマトに熟れるよ。
心の中で、そう思っていた。が、呆れて、喋る気力も無かった。
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