イマージョン
好物になってしまった紅茶味ビスケットを貪る。ココナッツ味より、紅茶味のが美味しいな。少し遅れて、久しぶりに千春が休憩室に入って来た。
「なーんか疲れた」
千春は吐き出す様に言った後、煙草に火を点けた。
「調子くるうよね」
ビスケットを、あっという間に食べ終え、口の中の水分がビスケットで奪われたのを、お茶で一気に潤し、私も煙草に火を点ける。相変わらず私は千春のスタイルに釘付けで、足を組んで座っている千春に注目していた。すると狙っていたのか偶然なのか山下さんが入って来て山下さんも煙草を吸い始めた。小さな窓だから3人も煙草を吸っていると小火が起きたかの様になる。煙草臭いと親に叱られるのと、山下さんが居るから気まずくなったのとで私は、すぐ隣りの倉庫で、しゃがみ込んで煙草を吸った。2本3本…。休憩時間は、とうに過ぎているのに時間に比例して煙草の本数が増えて行く。下に降りたくない。山下さんは店長になってから人が変わってしまった。店長になる前は彼はバイトみたいに、何度も2階に煙草を吸いに来て、2人で下らない下ネタとか馬鹿な話しをしたかと思えば、内容の深い話しをして価値観など合って気が合うと思っていた。確かに店長になれば、皆の上に立つ者としての責任は有るけれど、亜紀みたいに亜紀みたいにと人と比較をしないで平等に見て欲しい。そう口に出せない事を考えていたら、痛い視線が刺さって来た。山下さんだ。私は慌てて煙草を揉み消し、下へ降りて行った。
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