LOST MUSIC〜消えない残像〜


玄関のポーチに立て掛けられた、懐かしい形。


闇空の下、風に吹かれる黒いカバーに包まれた紛れもない俺のギター……。


足は衝動的に動いて、腕は必死にギターを抱き締めた。


いつから置かれていたのかそれはひんやり冷たくて、あの日の星羅が脳裏を過る。


もう絶対何も失いたくない。


もう、守れないのは嫌だ……。


強く心が叫び、タイルの上に膝をついて、ただただ胸に抱く。


二度と弾いてやれないのに、このギターが大事なんだ――。


胸は張り裂けそうに痛くて、カバーの上には溶けるように雫が染みていった。



< 233 / 299 >

この作品をシェア

pagetop