月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
多江さんとはどういう関係なんだろ。

そういやさっき兄さんとか言ってたけど。

疑問に思っていると、多江さんが答をくれた。

「和夫さんは隆夫さんの弟なの」

あ、やっぱり。

だから『兄さん』って単語が出てきたのね。

それにしてもと、新たな疑問が浮かぶ。

死んだ恋人の弟がたったひとりでお見舞いにくるって、そんな話あるか?

籍に入ってたのならともかく、多江さんと隆夫さんは恋人同士で終わりですよ?

これは何かワケありな雰囲気ですよ~。

あたしは心臓の鼓動が速くなるのを感じながら、多江さんと和夫さんを交互に見た。

だがそんなあたしを気にもとめず、和夫さんは多江さんに話しかける。

「兄さんも、もう天国にいるんだから、僕のことなんかほっとけばいいのに」

和夫さんも多江さんの病のことは承知してるに違いない。

そのうえで(こういう言い方はナンだが)調子を合わせているんだろう。

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