月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
食事係のおばさんと入れ違いに、達郎兄ちゃんは出ていった。


―――――――――――


その日の夜も、翌朝も、あたしは達郎兄ちゃんの言葉の意味をずっと考えていた。

達郎兄ちゃんの言い回しが、非常に気になったからだ。

でも『認めない』とか『短気を起こすな』とか言われてもなぁ…。

「どうしたの」

「達郎兄ちゃんのことを考えていたんです」

「え…」

高森さんが体温計を手にしたまま固まっていた。

「勘違いしないでくださいよー」

あたしは笑いながら手を振った。

年齢の割りには、ピュアな人だなぁ。

「あたしにはちゃんと彼氏がいるんですから」

そういや湯月くんと全然連絡とれてないな。

そろそろ本当にやばいかも…。

「ね、旭さん」

あたしに体温計を差し出しながら、高森さんがおずおずと訊いてきた。

「その、達郎さんと一緒にいる人ってどんな女(ひと)…?」

麗美姉ちゃんのことだ。

前に、チラッと話をしたっけ。

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