君の左のポケットで~Now&Forever~
あと30分。

わたしは急いでテーブルの上を片付けて、レンに入れるコーヒーの準備にキッチンへ行ってお湯を沸かす。


「間に合った…」


マグカップを準備する手は、針の刺さった穴でいっぱいで、

あちこちからまだ血が滲んでいる。

手を洗うと、ちょっと沁みる。

でも、いい。

これが、生きてるって証。


髪を整えて、服をチェックして。

最近レンに買ってもらった、色つきのリップクリームを塗りなおして。

それ以外はすっぴんだけど、「そのままがナナっぽい」ってレンが言ってたから、平気。

レンにプレゼントを贈れるのも、一緒にお母さんのところに行けるのも、

こうして待っていることができるのも、

わたしが、生きているから。


素敵なことだ。




お守りをそっとポケットに入れて、窓の外を見る。

桜の花びらはすっかり落ちて、小さな新芽が顔を出している。

風は日に日に温かみを増していて、頬を掠める。

もう少しすれば、この辺りの木々も、青々とした緑で満たされるんだろう。

濁りのない風に吹かれて、さわさわという心地いい葉の擦れる音が聞けるんだろう。



季節で変わる、この窓から見える景色を、ずっとレンと見ていたい。

桜も、新緑も、紫陽花も、落ち葉も、粉雪も。



ずっと。


レンと。




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