Dear my Dr.
あれは、

もう何年も前の話。




私はまだ高校生で、ちょうど英会話学校の帰り道だった。

突然の雨に降られて入ったカフェで、悠ちゃんを見つけた。

声をかけようかと思ったけど、悠ちゃんの前には女の人が座っていて止めたんだった。

別れ話の途中らしいその雰囲気。

“どうして別れなきゃなんないの?”

医学生の悠ちゃんは答えた。

“梓とは結婚できないから”

“好きなのに?”

“好きだけど…結婚してあげられないから、別れてくれる?”

見てはいけないものを見てしまったみたいで、雨の中を走って帰ったのを覚えてる。




あの頃は、悠ちゃんのことを何とも思ってなかった。

ただの“婚約者さん”だった。

だけど…

いつしか、あの場面を思い出すと胸が痛くなって、悲しくなっていた。

“好きだけど結婚してあげられない”

好きだけど、って。

逆に、私は“好きじゃないけど結婚してあげる”なんてことになるのかな?

そう思うと悲しい。
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