二つのシルエット
…麻子が分からない。
眼を狂気に光らせて、声が枯れるほど叫んでる麻子が分からない。
私たちのことを「修羅場だ!修羅場だ!」と言って笑いながら見てる高校生も分からない。
「…で、結局どうしたいわけ?」
「決まってんじゃない!
あんたが水瀬と別れたいと思うまで、水瀬に会いたくないと思うまで、あんたを汚してやるよ!」
「なら別れてあげようか?」
「…は?」
私がこんなことを言うなんて考えられなかったのか、麻子はなんとも間抜けな声を出した。
もうどうでもいい。
目の前で叫ぶ麻子も、その後ろにいる高校生も。
何もかもどうでもいい。
「聞こえなかった?
別れてあげようかって言ってんの。」
「……。」
「あぁ、でも。
私は水瀬くんが好き。水瀬くんも私が好き。
だから何度別れても元通りだけどね。」
「………まれ。」
「まぁ万が一元に戻らなくても、誰かさんとは付き合わないだろうけどね~。
………顔歪んでるよ?宮坂さん。」
「だまれええええぇぇぇぇ!!!」
そう叫びながら何度も私を殴る麻子。
そして何を思ったのか、急にハッとなり、ニヤッと笑った。
「そんなセリフ言えるのも今のうちよ!
やってちょうだい!」
麻子のその言葉をきっかけに、待ってました~と動き出す男たち。
私の上に跨がるひともいれば、腕や足を抑えつける人もいて。
「ちょっとは抵抗してくれた方が面白いよなっ。」
そう言った男は私の腕に巻き付いていたロープを外したけれど、今の私には抵抗する気力も体力もない。
もうこのまま流れに身を任せよう。
そう決めて私は目を閉じた。