《短編》夏の雪
修司くんは「マジかよ」とぼそりと言ったかと思うと、でたらめな念仏を唱え始めて。

あたしは腹を抱えて笑った。



「いやもう、お前ほんとそういうのやめろよ。俺マジでダメなんだって!」


意外に可愛いな。

まさかの弱味を発見し、ちょっと面白かったから、あたしは幽霊さんが同乗してる設定を貫いてみることにした。



「女の人の生き霊っぽいよ。あんた恨まれてんの?」

「おい」

「後ろで泣いてるよ。何か言いたいことあんのかもね、あんたに」

「おい!」

「可哀想だねぇ。うん、うん、同情するよ」


適当に言ってたら、



「おい、もうわかったって! わかったから、マジやめろ!」


修司くんは泣き縋るような顔で言って、あたしの右手を握った。


自分で言っておいて、嘘だとは言えない状況になってきた。

どうしましょ。



でもこいつ、思い当たる節があるからこそ、こんなにビビってんだとしたら、自業自得ってことで、嘘だとわざわざ言わなくてもいいかも?



「大丈夫だ。これは雪の車だ。そうだ、だから大丈夫だ」


修司くんはまるで自分自身に言い聞かせるように、支離滅裂な理由付けをして「大丈夫だ」と繰り返す。

もしも、今ここにほんとに修司くんを恨んでる生き霊がいたとしたら、これじゃあ、あたしまでとばっちりで恨まれるじゃん。


だけど、未だあたしの手を握ったままの修司くんの手は、雪ちゃんとは違ってあったかかったから。



「まぁ、何でもいいけどさ」


すべては夏の夜という特殊な状況がもたらす気まぐれのようなもので。

あたし達はそれからずっと、帰るまで、手を繋いでいた。
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