たんすの中の骨1
開けっ放しの窓から舞い込む風は生暖かく、彼女の黒くて長い髪を乱暴にかきあげた。うっとおしそうにきれいな顔をゆがめると、彼女は読んでいた小説を畳の上に伏せ、ぶ厚いガラス窓に手をかけた。
下の階からの夕飯と、やけに湿った土の臭いが一緒くたににたちこめる。
嵐が来るだろう。
彼女はしばらく、まだ明るい窓の外をぼんやりと見つめた。埃っぽい商業街と静かな住宅地が広がるその先に、びらびらと波打つ海があった。それと同じ色をした途切れ途切れの雲からは、雷が遠く、甘く響く。
「ニュース速報です」
棚の上の小さなラジオから機械的なアナウンサーの声がした。彼女はたまらずふりむいて、次の言葉を待った。言いようのない不安は、確実に彼女の体をついばむ。
「先ほど**県*市の廃墟となった宿泊施設から、白骨となった女性の遺体が発見されました。遺体は衣装箪笥の中に遺棄され、赤い肩掛けと白いコートのみを着用し、身元を証明するものは所持せず、警察では事件の可能性が高いとみて捜査を進めているとともに、この女性の身元もあわせて捜索を・・・」