愛を教えて。
いつも私が反省の間にいると、兄はおいでと言って、面白いおもちゃやゲーム、そして学校であった出来事を面白おかしく聞かせてくれる。
兄だけは、私を愛してくれていた。
『俺は、これからそばに居てやれないから、帰ってくるまで、いや、お前を守ってくれる人が現れるまで、この時計を俺だと思って頑張れ。つらくなったらすぐ電話するんだぞ』
兄が海外に行くことになった時に貰ったこの腕時計。
この時計が、私を見守ってくれている。
「笑ってる顔も可愛い」
ハッと我にかえる。
となりに座る謎の男の存在を忘れていた。
「誰を思ってそんな顔をするのかな。ちょっと嫉妬しちゃうよ」
何を言ってるんだろう。
もう、お礼は一応言ったし、これ以上ここにいる理由はない。
さっと立ち上がると、玄関に向かった。
あの男は後ろをついてくる気配がない。
少し拍子抜け。
まぁ、いいけど。
ドアノブに手をかけ、少しだけ振り返ると、あの男は携帯で誰かと話しているようだった。
片手で私に手を振っている。
意味わかんない。
私はすぐに部屋を出た。
「はい。分かってますよ。〝何事も計画的に〟ですよね?お義父さん。」
あの男の電話の先にいたのが誰だったのかなんて、私にはさっぱり興味はなかった。
