愛を教えて。
あの頃の私には、父と母、そして唯一私に優しく接してくれる兄だけが、世界のすべてで。

他には何もなくて。



愛して欲しいという思いだけが、心のなかにずっとあった。




ガチャっと音がして、音がした方向を見上げる。

そこにあった顔を見て喜びのあまり立ち上がりそうになるが、足が感覚を失ってしまっていて思うように動かせない。



『おにいちゃん』



切なげな顔をした兄が立っていた。


学校から帰ってきたばかりのようで、まだカバンを手に持ったまま。

兄は、優しく微笑むと、


『ぼくのへやに行こう。面白いゲーム買ってきたから』


でも、勝手にこの部屋を出たパパとママにまた怒られる。
そう思い悩んでいると、私の前にしゃがみこんだ兄が、私の手をとって、ぎゅっと握りしめる。

安心してと言い聞かせるように。



『大丈夫。パパとママは仕事で遅くまで帰ってこないから。ほら、行こう』




『……うん!』



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