Fahrenheit -華氏- Ⅱ


赤ん坊の声は、言うまでもなく俺の空耳だったわけで、


がらにもなく熱を出し、おまけに悪夢を見たせいで、精神的に弱ってたに違いない―――


そう思うことで、決着をつけた。




どれぐらい眠っただろう。


ふと目覚めると、頭はすっきりと冴えていて、昨日までの体の重さはどこかへ消えていた。


携帯のデジタル時計は5時半を示している。


起き出すにはちょうどいい時間だ。





だけど隣に瑠華の姿は―――なかった……





帰ったのだろうか。


熱が引いたのを確認できたから、自分の家でゆっくり休もうと思ったに違いない。


昨日は一緒についててくれたけど、それでも目覚めたときに瑠華の姿が見えないと、やっぱり寂しいし、彼女との距離を改めて感じる。




首を僅かに動かすと、首の下で何か柔らかいものが一緒に動いた。


何だぁ


そう思って横を見ると、ピヨコの“せせり”の部分が俺の首の下にフィットしていた。


『丁度この首の部分が頭にフィットして、枕にするには最高なんですよね』


ほんとだ……


ってか、ピヨコを置き去りにするなよな…


黄色いふわふわの顔に浮かんだ眉がちょっと悲しそうに下を向いている気がして、俺は何となくピヨコを抱き上げた。


「お前も俺と一緒かぁ。瑠華に置いてかれたんだなぁ」


なんてぶつぶつ独り言を言ってる俺…


………


危ない、危ない。ぬいぐるみ相手に独り言とか、ありえねぇだろ。



欠伸をしながらリビングに行くと、昨日の同じ場所にスーツケースがあって、俺はちょっと目をまばたいた。


帰ったんじゃ――――なかったんだな……






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