Fahrenheit -華氏- Ⅱ


そのことに思いも寄らない大きなため息が出た。


安心感からだった。


寝ている間に女が居なくなって、それを寂しいと感じる。だけど女は帰ってなくて、ちょっと出かけてるだけだった。


そんな事実に、俺は今までに無い安堵を覚えていた。


こんなの初めてだ。


寂しいと思うのも、ずっと一緒に居たいと思うのも―――





真咲には抱けなかった感情を―――俺は瑠華に抱いている。



真咲と作れなかった幸せな未来を、俺は夢に描いている。




裸足のままフローリングをのろのろと歩くと、ひんやりと冷たい感触を足の裏に感じた。


まだ熱を持った体に、その感触は心地いい。


それでも汗で失った水分を求めて、俺はキッチンに向かった。


ダイニングテーブルの上に、何かが置かれているのを見て俺は足を止める。


淡いブルーの小さな四角い箱。白いリボンが十字にかけられていた。


見覚えのある箱だった。


そしてその隣には昨日俺が食べたいと言っただし巻き卵が小皿に盛り付けてあって、綺麗にラップがかかっている。


瑠華……


夜中に目が覚めたとき、彼女はキッチンに居た。あのとき瑠華はこれを作ってくれていたんだ。


めんどくさそうにしてたのに…それでも作ってくれた彼女の気遣いに頬が緩んだ。


卵焼きを一切れつまんで口に入れると、俺は箱を手に取った。





箱の側面に“TIFFANY&Co.”と書かれていた。





忘れられるわけもない。


俺が真咲に指輪をプレゼントしたときの箱と同じだったから―――




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