Fahrenheit -華氏- Ⅱ


「あんたそんなに柏木さんと一緒に居たいわけ??」


「何だよ、悪かったな」


ブスリと答えると、予想に反して綾子はほんのちょっと笑った。


「いいんじゃない?前のあんたからは考えられないことだったけど。分かったわ。桐島くんのとこのお祝いも選びましょう、って誘ってみる」


綾子は小鳥のように軽く笑って、でもすぐに表情を歪めた。


「あんたまさかそれだけ言う為にここに来たっての?さぼってないで、ちゃんとしなさいよ」


なんて怒られた。


「さぼってません。部署内停電でね。パソコン使えない状態なの」


「部署内…範囲狭っ!」


綾子の突っ込みに返さず、


「二村の野郎がさぁ…」とトラブルがあった理由を話した。


綾子はのんびりとコーヒーを飲みながらも、ふんふんってな具合で頷く。


「それは災難ね~」なんて綾子は他人事。


説明したついでに、俺は何の前触れもなく、


「ところで、瑞野さん……居る?」


言いにくそうに会長室の方を振り返ると、綾子は眉間に寄せた皺をさらに深めて、


「居るけど…、あんたまさかあの子にまで手を出すつもり!」


と綾子がいきり立った。



「んなわけねぇだろ!俺の愛するハニーは瑠華ちゃんだけだ!」



そう怒鳴り返すと、綾子が


「あの遊び人の啓人が…“ハニー”とか…ありえないし。キモッ!!あんた精神科行ったら?頭のネジが一本どころか…数本抜けてるわよ」


なんて真剣に俺を覗き込み、ポンと軽く両肩を叩かれた。



余計なお世話だ!



そう怒鳴りながらも、俺は綾子の耳に顔を寄せた。


「何よ」


と綾子が眉を吊り上げて、一歩身を後退させる。


俺はそんな綾子の腕を強引に引き寄せて、笑顔で綾子を覗き込んだ。


「ちょっと話し辛いんだけどさぁ♪」





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