Fahrenheit -華氏- Ⅱ
特にこれと言った用はない。稟議書の決済が降りたという書類を取りにきた―――ってのは口実で、
俺は瑞野さんに会いにきたってわけだ。
勘違いしないで欲しいが、これはあくまでプランAのため。
最上階にたどり着くと、給湯室で綾子がコーヒーカップを洗っている最中だった。
「あら。お疲れ。会長ならお出かけよ?」
知ってる。だから来たってわけだ。
「なぁ綾子。瑠華から聞いてると思うけど…」
「ああ、ハロウィンパーティーのことでしょう?10月29日の土曜日でしょう?ちゃんと開けてあるわよ」
綾子は相変わらずの態度で、シンクのへりにもたれ掛かりながら、新しく淹れたコーヒーに口を付けた。
「今度パーティーで着ていくドレスを柏木さんと買いに行くことになったのよ♪」
なんて綾子は楽しそうだ。
ドレス……
聞いてねぇ。
しかも何か楽しそうだ!
「俺も行く!」
なんて手を挙げると、
「あんたは呼ばれてないの。ガールズデーだからダメよ。裕二も誘ってないんだから」
ガールズ…ってお前、そんな歳じゃねぇだろ。
と突っ込みたいのをこらえ、
「んじゃぁさぁ、四人で桐島のとこのお祝いの品買いにいくってことで~♪」
なんて提案してみる。
ようはその買い物にどうしてもくっついて行きたい俺。
俺の提案に綾子が「ふぅん」と目を細めて腕を組んだ。