Fahrenheit -華氏- Ⅱ
エレベーターホールの影からちょっと顔を覗かせて、ロビーの様子を伺う。
デザイン性の高い白いチェアに腰掛けた女が一人、姿勢良く座っていた。
「あれか?」
同じようにロビーの様子を窺っている裕二にひそっと問いかけると、
裕二は無言で大きく頷いた。
ぱっと見―――遠目だけど、結構可愛い子だった。
歳は瑠華よりも少しだけ年下に見えた。
お嬢様っぽい内巻きの髪が肩のラインで揺れている。
服装も上品で、とてもじゃないがワンナイトラブ…どころかストーカーをするような女に見えん。
なるほど、裕二がたった一夜だと言えど関係を持ってもいいかなって気になったのが頷ける。
雰囲気だけならいいが、だけど、ああゆうタイプはいかにも重そうだ……
桐島はストーカー女に近づくと、持ち前の爽やかな声と雰囲気で彼女に何かを話しかけ、手振り身振りであれこれ説明していた。
ここからじゃ桐島とその女のやり取りが聞こえない。
だけど女は桐島の話に頷いて、やがて席を立ち上がった。
様子を窺っていると、女はこっちにも目もくれず立ち上がり、桐島に小さく一礼して出入り口の自動ドアをくぐっていった。
さっすが桐島!ってか、あの女に何言ったんだ??
彼女が完全に視界から見えなくなるまで桐島はその後ろ姿を見送っていたが、帰ったことが確認できたのか、
ため息をつきながら俺たちの元へ歩いてきた。
「裕二は大きなサーバートラブルを抱えていて、今手が離せない状態。会社のSEはほとんどが借り出されてるって現状。
回復の見込みは立たず、今はそれに付き切りだから無理そうです。
って伝えたら、あっさり帰っていったよ」
桐島の口からすらすらと出る嘘にも驚いたが、
真顔で喋るこいつが、俺たち以上に慣れていそうで、俺は思わず苦笑を漏らした。