Fahrenheit -華氏- Ⅱ
桐島は俺の内心を悟ったのか、ちょっと肩をすくめて、
「業者とのトラブルなんてしょっちゅうだから、もっともらしく言い訳することに慣れてる」
桐島は言い訳って言ったけど、『嘘も方便』って言葉の方がしっくりくる。
まぁいかにも悪意のなさそーな桐島が、丁寧に説明くれりゃ何も知らない部外者の女なんてそれを信じてしまうんだな。
俺が出て行ったところで果たしてそれが通用するだろうか。裕二と同じ空気を漂わせてる…いかにも似非くさそうな俺の言葉なんて信用できないだろうな。
結果、助かったわけだけど。
桐島に感謝だぜ。
「俺、丸の内にある董蘭に行きたい。裕二宜しく」
桐島はにこにこ笑って、裕二の肩にぽんと手を置く。
丸の内にある董蘭って言うのは高級中華料理店で、数年前出来たばかりのとき女と行ったのを覚えている。
食材も味も申し分のない一級品。だけどお値段も超一級!
ミシュランの星二つがつき、そのお陰で予約も取りづらいという状況。良くテレビかなんかでセレブ御用達のお店とかで紹介されてた。
相変わらずちゃっかりしてるな、桐島。
それでも、
「高くついたな、裕二♪」
俺にとっては所詮他人事。
にしし、と笑って俺は裕二の肩を軽く叩いた。
裕二はがくりと肩をうな垂れ、それでも桐島と仲良く高級中華か、あのストーカー女とトラブルかを天秤にかけ、
結局、高級中華を選んだってわけだ。
ある意味一番、世渡り上手で何でもうまく立ち回れるのは―――
桐島だったりして。
さっすがクロキリ。
ホントは黒霧島(焼酎:略名くろきり)だけど、黒桐島の略でクロキリ
俺は思わず苦い笑いを漏らした。