Fahrenheit -華氏- Ⅱ
普通に見たら…ってか名字も女の名前っぽいが、それほど気にならないだろう。
でも瑠華は―――
真咲と名刺を交換して、あいつの下の名前を知ってる。
しかも厄介なことにそれは仕事用の携帯ではなく、瑠華とお揃いのプライベート用の携帯に入ってる。
マズイ!
非常にマズイ!!
俺は髪を拭くのもやめて、慌ててパウダールームを飛び出した。
「瑠華!」
裸足のままリビングに向かうと、時すでに遅し―――
瑠華は俺のプライベート用の携帯を手に、目を開いていた。
「……る、瑠華?」
恐る恐る問いかけると、
パチン
瑠華は携帯を閉じて、
「ありがとうございました。緑川さんの番号」と言ってそれをずいと渡してくる。
いつも通りのそっけない―――無表情で言って瑠華はソファに座りタバコに火を灯した。
あれ……気付かなかった?
それならそれでいいけど―――気付いてても、何も思わなかった?
それもちょっと寂しい……
けど、今は厄介ごとを敢えて自分の口から持ち込むこともない。
裕二の件もあるし―――
何より真咲の狙いが分からない今は―――瑠華に何もかもぶちまけるわけにはいかないんだ。