Fahrenheit -華氏- Ⅱ
走り出そうとしていた俺はブレーキを踏んでパワーウィンドウを開けると、窓のサンに手をついて瑠華がちょっと覗き込んできた。
「何?♪もしかしてお別れのチュー?」
ちょっとフザケて言うと、
「そうじゃありません」
とはっきりキッパリ。
分かってたけどね、うん…
でもそうまで否定されると僕ちゃん悲しくなるって言うかね…
ハンドルの上でいじいじ指をこねくり回してると、
「緑川さんがやはり心配なんです。
啓、彼女のことよろしくお願いします」
俺のふざけた様子とは反対に、これまた真剣な顔で言われて俺はぎごちなく頷いた。
“女の勘”―――
と言うものがあるが、俺はあれほど恐ろしいものはないと思う。
科学的にも物理的にも何の根拠もないのに、女は俺たち男と違って、こと恋愛に関しては野生並みの勘を働かせる生き物だ。
(こんなこと言ったら瑠華にまた怒られるケド)
女たちが働かせる勘って言うのは、ほとんどと言って命中する。
『他に女がいるでしょー!』
『違う女と寝た??』
俺が過去に関係を持った女たちによく言われた言葉だ。
女関係には、それはそれは抜かりなくやってた俺ですら、彼女たちの根拠のない発言にはビビった。
やっぱあれか…?普段の行いが悪いからか~?
ってか、その勘をロトシックスなんかに使えばいいのに、
そうゆうもんじゃないらしい。
大体予想だけで全てを当てられたら、天気予報士も必要ないし、競馬場は潰れること間違いない。
と、まぁ『女の勘』に関しての俺的レポートはおいといて~…
このとき瑠華の緑川を心配をする態度が普通じゃなかったのは、やはり彼女の中に説明しがたい『女の勘』ってやつがあったから。
このときは何とも思ってなかったのに、いずれ俺はこの意味を考えることになる。
瑠華、君の勘は正しかった―――とね。