Fahrenheit -華氏- Ⅱ



――――


瑠華に言われた通り、俺は素直に緑川が住んでる北品川のマンションまで向かい、その下であいつに電話をした。


駐車場から緑川の部屋がある階を見上げながら、


TRR…


『…は、はい!』


ワンコールの途中で緑川の勢い込んだ声が聞こえた。


お前、具合悪かったんじゃないんかよ。仮病かよ。


眉をしかめながらも、片手に提げたプリンの箱を見下ろす。


手ぶらじゃなんだから、ホントに具合悪くしてたらこれぐらいだったら食えるだろうかと思って、俺自身まだ昼飯食ってないってのに、


わざわざ人気のある洋菓子店に並んで買った。


「よぉ。オ・レ♪元気そーだね、緑川サン」


嫌味っぽく言ってやると、


『…ちょ、ちょっと待っててください…!』


緑川が慌てて言って、


ガチャッバタン!


派手な音が受話口から聞こえてきて、俺は思わず携帯を耳から遠ざけた。


何やってんだぁ?


訝しく思いながらもマンションを見上げていると、緑川が慌てた様子で出てきた。


『お待たせしてすみません』


緑川は俺が下に来てることに気づいていないのか、ドアにもたれながら携帯を耳にしている。


てか何で外に出て電話するんだよ。


一瞬思ったが、まぁあいつの行動にいちいち疑問を持つ俺が間違っている。


なんて言ったって、あいつは変化球の女王だからな!


今は何を考えてるのか知らないが、俺は身構えながら



「今お前んちの下に来てるんだけどー。


具合悪いんだって?


瑠……柏木さんから聞いたけど?」



そう答えると、緑川は階段の手すりから慌てて身を乗り出して



「よっ」



気軽に手を挙げた俺を目に入れると、目を開いて


『ちょ、ちょっとそこで待っててください!』


またも慌てて言ってエレベーターに向かった。





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