Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「緑川さんのパパは二村と緑川さんが付き合ってること知ってるの?」
俺が聞くと
緑川はブンブン首を横に振って
「何だよー、まだ話してないんか?結婚するつもりなんだろ?」
またも聞くと
「言うのが怖い―――んです……」
緑川はぎゅっと膝の辺りを握った。
「どうして?娘にふさわしくない!とか言って反対するタイプじゃないだろ」
「あたし彼にまだ副社長の娘だと言うことを言ってないんです」
言ってないも何も、あいつは気づいてるだろ。
だから緑川を利用してるんだって。
喉まで出掛かった言葉を何とか飲み込む。
「でも二村くんがそのこと知ったら、あの人絶対あたしと結婚するって言うはず」
「いいことじゃん」
本当はもっとも悲惨な状況になると思うが。
「薄々……心のどこかで勘付いてるんです…
二村君が好きなのはあたしじゃなく、あたしのパパ。あたしのパパを利用してもっと高みに昇りたいって思ってるはず…」
緑川―――は、バカではないようだ。
「だったらそんな男やめちまえよ。
二股掛けられてるんならなお更」
そうすれば二つの派閥争いが少しでも緩和される。
用は今までどおり続いていくってことだが。少なくとも政権がひっくり返る時間は伸びる。
でも緑川の中にある恋心はそれを邪魔しているのだ。
「あたし、二村君のことが好きなんです。
もうどうしようもないぐらい」