Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「なぁんか知らないけどさー、
何かに悩んでるの?
てか二村の二股、まだ続いてるの?」
俺がレンガ造りの生垣に腰を下ろしてズケズケ言うと、緑川は箱をぎゅっと胸に抱きながら、またも俯いて小さくこくり、と頷いた。
「あいつ…どうしようもないヤツだな」
てか人のことどーこー言える身分じゃないけど。
「で、でも確証はないんです。あたしが疑ってるだけで…」
「女の勘ってヤツ?それなら大抵当たってる。
俺もそれで何度か攻められたから、
経験者は語る、ってやつだな」
俺がそっけなく言うと
「やだぁ、部長が言うとなんかリアル~」
と緑川はさっきの落ち込みようから一転、俺の隣に腰掛けてきた。
俺、結構ひどいこと言ったってのに、変なところで明るいな。
ま、俺としちゃこいつの落ち込んでる姿よりも多少貪欲なぐらい攻められる方がいいけどな。
こいつが暗いと何か調子狂うし。
「柏木さんがずっと心配してたぜ?緑川さんのこと」
俺が切り出すと
「………はい…柏木補佐にはご迷惑をおかけしまた…」
と、またもしおらしくなる。
どうやら瑠華に相談したいと言う話は俺には聞かせられないらしい。
はぁ
俺はため息を吐いて空を見上げた。
さっきまで晴天だったのに、今はどんよりと灰色が掛かった重い雲が空を覆っている。
やっぱり今日の天気は晴れのち雨、だな。
緑川が花金だと言うのに残業してたり、俺の前でしおらしく落ち込んでたり。
いや
緑川のせいじゃない。
二村が居ると言うことを聞いてから、忘れかけていた“派閥争い”の問題も
あの緑川の背後に見えた小さな赤ん坊の手も
何もかもこれからの運命をあらわしているんだ。