Fahrenheit -華氏- Ⅱ

* Side Ruka*



.。・*・。..*・ Side Ruka ・*..。・*・。.


エントランスロビーで緑川さんは私が言った通り、バッグを両手で持ちそわそわとした様子で辺りを窺っていた。


てっきりあたしの姿を見つける為かと思っていたが、


「あ、柏木補佐こっちです」と手をあげ、あたしが彼女の元へ歩いて行っても尚、落ち着きのない様子であちこちを眺めている。


心なしか速足で、早くこの会社から出たい、と言った感じにも見えた。あたしもその横で歩を速める。


出入口のIDをかざす自動改札口では、ちょうど営業から帰ってきたのであろう他部署の社員や、これから家路に向かおうとしている社員たちが結構多いが、あたしには二人分のヒールの音が淡々と響いているだけのように聞こえ、あたしたちは会社を出るまで会話を交わすことはなかった。


最寄りの広尾駅に向かおうかと思っていたが、この様子じゃ東京メトロ日比谷線で中目黒駅から更に東急東横線に乗り換えることは、緑川さんにとっては気を張ることなんじゃないか、と思って

結局、タクシーを拾うことにした。電車での移動より半分の時間で行けるし。


「タクシーにしましょうか」と提案すると緑川さんはあからさまにほっとしたようだ。


タクシーを拾い、二人で乗り込み出発をしても尚、緑川さんは後部座席から背後を気にするようにちらりちらりと気にしていた。


何を気にしているのだろう。


何を警戒しているのだろう。


そう


あたしが感じたのは紛れもない『警戒心』だった。


誰を―――警戒しているの?
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