Fahrenheit -華氏- Ⅱ
あたしは―――またマズイことを言ったのだろうか、と一瞬思ったが、そうではないようで
「ホントに!」と勢い込んできた。
その勢いに思わず顎を引き驚きつつも小さく頷くと
「一緒についてきてくれますか!?」
「ええ」今度ははっきりと返事をした。「私の通っている産婦人科の先生は女医さんで、とても信頼できる先生です。紹介します」と付け加えると、緑川さんは心底ほっとしたように胸を撫で下ろし
それまでの不安や恐怖と言う負の感情を拭い去り、元来の明るさを取り戻したように見えた。そのことにちょっとほっとした。
何も判明していない今、あれこれ考えたって仕方ない。
「あの……」と緑川さんはちょっと顎を引き
「このこと部長には…」と唇を引き締めた。緑川さんが言う『部長』と言うのはきっと啓のことだろう。緑川さんの中で今でも部長の席はたった一人、
啓なのだ。
嫉妬とかじゃない、何だかそれがとても嬉しかった。
きっと緑川さんは今でも啓のこと尊敬して、頼っている。
「もちろん言いません。緑川さんは“私”に相談したいと最初から仰ってましたので、喋るつもりは毛頭ありません。
なので、あなたも二村さんには今日話したことを絶対に言わないでください」
しー、と言う意味で唇に人差し指を置くと
「はい!分かりました。だけど、聞かれたら何て?」と不安そうに声を震わせて意見を仰がれる。
「そうですね、私とあなたの意見が食い違うとマズいです。子宮筋腫ができた、と。それ程重要視する問題ではありませんが、柏木には、自分が不安で婦人科を紹介したてくれた、と。表参道にあります」
緑川さんは真剣に頷き、緑川さんはここになってようやくティーカップに口を付けた。
「ぬるくなってる」とぎこちないながらも笑顔を浮かべ
「お代わりを頼みましょうか」と提案すると
「いえ、このままで」とティーカップを大事そうに両手で包む。
ストロベリーのフレーバーはミルクティーが冷めても尚、甘い香りを放っていた。