Fahrenheit -華氏- Ⅱ
まるで能面のようにつるりと表情のないその顏は、俺が知る菅井さんとはまるで別人に見えた。
「……すみません。不躾なことを…」と、言いかけたところで
「知りたくないからです」
菅井さんの冷ややかな声が俺の詫びに被さった。そう、その声は『冷ややか』と表現するのが一番ピッタリだったんだ。
その冷たい物言いは、誰かに似ている―――と思ったら、一瞬で分かった。
瑠華だ。
菅井さんは瑠華―――だ。
燃えるような闘志を胸の内に秘めている。
瑠華はポーカーフェイスで表情に出さないだけだが、菅井さんは人の良さそうな好青年の姿を演じて、まさに「仮面」を被っていた。
二村も「仮面」を被っているが、それとは種類が違う。“狡猾”ではない。この人は―――
叫び出したくなる程の感情を笑顔の下で必死に隠しているだけ。
その仮面の下で
酷く苦しんでいる
瑠華が苦しんでいたように、悲しんでいたように―――
もう一人の菅井さんが居る。
本当は知りたい筈だ。本当は怖い筈だ。“俺”と言う存在が―――
婚約者である真咲の……昔のオトコの存在に恐怖を抱かないワケがない。
「……すみません……少し物言いがキツかったですね…悪意はないのです」と菅井さんはすぐに「仮面」を取りつけて申し訳なさそうに頭を下げる。
「……いえ、あの……」と言いかけるとき
「すみません。次の営業先でアポが入って居るので、私はこれで失礼します」
菅井さんはやや強引と呼べる切り口で席を立ちあがり、俺もそれ以上止めることはできなかった。
大体、俺はここで何を話そうとしていたんだ―――
ここは神流グループの中枢で、誰が何を聞いているか分からない危険な状況だって言うのに。
結局、俺は彼を見送る為、入口の自動扉の前まで促した。
「今日はありがとうございました。次回はアポイントを取らせていただいてから」と菅井さんが頭を下げたときだった。
「Hey,ケイト!」
俺の背後から場違いな程明るい声が聞こえて、俺は下げかけていた頭を上げることになった。
心音ちゃん―――………