Fahrenheit -華氏- Ⅱ
心音ちゃんは俺の背で隠れていた菅井さんの姿を最初捉えられなかったのか、気軽に声を掛けてきたが
「Oh,sorry.(あら、ごめんなさい)お仕事中だったのね」
と、その辺の空気は読めるんだな、心音ちゃんは口元に手をやって申し訳なさそうに眉を寄せた。
「いや……もうお帰りになられる所だったから」
「Was he?(そ?)」
心音ちゃんはすぐにいつもの調子に戻って軽く肩を竦める。
心音ちゃんは生粋のニューヨーカーだ。歩き方とか動作とか気さくな喋り方とか、こっちの人間じゃないことは一目瞭然。菅井さんが少し驚いたように目をまばたきして
「神流さんのご友人ですか?」と不思議そうに心音ちゃんを見やる。まぁお互い知らない仲じゃないし、やりとりがフランクだったってのもある。そう思われて当然だ。
「ええ、まぁそんな所です」
正確には「瑠華の」友達だが、俺と瑠華の関係を隠してる以上下手なことは言えない。
心音ちゃんは一人だ。瑠華は見送らなかったと言うワケか。彼女らしからぬ行動だが、気心知れた友人だし、それ自体は別段問題視することでもない。
それよりも、心音ちゃんは歩くスピーカーみたいな所があるからな。早く帰したい。
だが、俺の意思とは反対に菅井さんは心音ちゃんの姿を見て……ちょっと考えるように目を細めている。
その視線は見つめる、と言うよりも観察しているように思えた。まぁ見た目『だけ』はかなりのハイスペックだからな…(←失礼)見惚れるのも分かるが…